多競争時代の中の大学と受験産業(その1)

「入試バブル」から「全入時代」へ−時代転換の意味

 大学入試の壁が溶融している――98年度の大学入試が終わったが、私立大学の下位の大学を中心に「受ければ合格」「落ちない」現象が目立ってきた。大学入試がやさしくなっても就職難や大学院まで見込んだ高学歴化でチャレンジ受験が増え、上位層の浪人が増えると読んでいた予備校・塾業界だが、長引く不況と今年のセンター試験の難化で安全志向が強まり、「浪人が消えた」と生徒確保作戦もままならない状態だ。そこで、大学入試を中長期的にとらえ、過去の入試の実態をとらえ直し、少子化時代の中でこれからどのように推移していくのか、考えてみよう。

大学・短大志願率は35%から62%へ

 
まず、過去20数年間の大学入試を振り返ってみる。28年前の1970年度は、18歳人口約195万人に対して、大学・短大志願者数は約68万人、入学者数は約46万人で、18歳人口に対する志願率は35%、進学率は24%だった。その率は年々上昇を続け、97年度は志願率62%、進学率47%となっている。同年齢の若者の半数近くが大学・短大に入学する時代になったのである。

 当然ながら学力下位層の入学者が増え、大学が補習(リメディアル)教育をしたり、学生に迎合した入試やカリキュラムの多様化という現象が起こった。口の悪い人に言わせれば「大学のレジャーランド化」も進んだ。

 しかし、92年度までは受験人口の急増が続いたため大学は“我が世の春”を謳歌し、志願者増に酔った。予備校・塾も不合格者数がピークだった90年度前後までは努力しなくても生徒は集まるという状態が続いたのである。

はじけた“大学入試バブル”
 
 

そこで、この“大学バブル”の実体を冷静に見てみることにする。

 図は、1970年度から10年ごとに18歳人口と志願者の様子を表し、さらに最近の実績と2009年度の予測(文部省・大学審議会)を示したものである。ローソクの形の全体が18歳人口を表し(人数は面積に比例)、上部の炎の部分が志願者である。28年前の1970年度は、18歳人口に対する志願率が35%、進学率が24%だったので、ローソク下部の高さが進学しなかった65%を表し、炎の中の白い部分が11%の不合格者を表している。

大学・短大志願者全員が同じ試験を受けたと仮定して偏差値をつけてみると、偏差値20から80までの間に99.7%が含まれるので炎の部分に偏差値をつけ、偏差値50を中心に人数の多い偏差値帯が膨らんでいる(実際は正規分布なので中央付近がもっと膨らみ、上と下がもっと細くなる)。おおざっぱに「偏差値50の大学」と言うと、70年度は18歳人口を学力から見て上から18%くらいの位置にいる学生が多いと思えばいいだろう。80年度になると志願率が高まるので偏差値50は上位から26%程度になり、90年度は29%程度、97年度は31%程度の位置になる。つまり、もしある大学についてこの間同じ値の偏差値が続いたならば学生の学力は下がり続けたということになる。

 いま70年度に偏差値が50程度だった私立大学を想定してA大学とする。この大学はその後の入試動向からみて80年度には偏差値が55程度になり、90年度には567に上がったかもしれない。当時はそういう動きが平均的だったのだ。厳しい入試状況だったから学力上位層でもかなり下まで併願し、浪人すればなお厳しくなることが予想されたので受験生は不満でも滑り止め大学に入学した。A大学にも上位大学を不合格となった“優秀者”が入学したことだろう。この頃はどの大学も「うちは偏差値が上がった」「いい学生が入学するようになった」と喜んでいた。しかし、図示したように入学生の中心は偏差値が上がったとは言っても全体の位置関係から言えば学力はダウンしていたのである。

 そして、バブルがはじけ、志願者数は激減期に入った。受験生は併願校を絞り、実力相応の大学に合格し始めた。これまでは不合格者にしていた層まで入学させるようになったから学力の低い学生が目立つようになった。「そのうちに学生を確保できなくなるのでは」という不安が大きくなったものの打つ手はない、というのがいまの多くの大学の実像である。

 大学審議会の試算によると、2009年度には入学者数と志望者数が同数になる「大学全入時代」を迎えるという。18歳人口に対する志願率・進学率をみると、80年度はそれぞれ52.6%・37.4%、90年度は57.9%・36.3%、97年度62.3%・47.2%。その差が不合格者の割合となり、志願者数に対する入学者数の割合(入学率)は、70年度68%、80年度71%、90年度63%、97年度76%。さらに、大学審議会の試算によると、2009年度には志願率は58.8%となり、全員が入学できるので入学率はついに100%となる。しかし、浪人しても志望する大学に行きたいという受験生や留学、専門学校進学などもあるから1割程度は大学・短大に入学しない層が出ると思われる。そうなると、定員割れの大学・短大が続出する。いまでも短大の3割は定員割れという報道もあり、今後大学にとって深刻な問題になるだろう。

大学がつぶれる時代が来る!?

 
文部省は、1991年に大学設置基準を弾力化させた。いわゆる“大学設置基準の大綱化”で、規制を緩和し、大学の個性や自主努力で運営できるようにしたものだが、そのとき文部省から「大学がつぶれることもある」という声が出、閉鎖する大学の学生救済策も検討された。それは一つの“大学ビッグバン”であった。それをきっかけとして大学改革の波が押し寄せたのであるが、大学を駆り立てた力はいずれ確実に来る受験人口の急減であり、生き残り対策であった。

 大学存亡の危機がいま現実のものになろうとしている。短大はやっきになって4年制大学に転換しようとしている。図にも示したように、短大は人気を保っている医療・看護・福祉系など一部を除けば志願者の下位層の受け皿になっている。大学志願者のうち、国公立大学を目指す者、最難関私立大学を目指す者の中には自主浪人をするケースがあるだろう。また、学力下位層でも大学の評価が二極化(あるいは分極化)し、評価が低い大学に行くぐらいなら留学するとか、専門学校で技術・資格を身につけようとか、いつでも入れるならしばらく仕事をしてからとか(生涯学習が浸透しているアメリカではこのケースがけっこうあるらしい)、などの流れが出てくるかもしれない。

 危機は短大や下位私立大学だけに来るのではない。東大や京大も早慶上智も、関関同立も危機感を持って動こうとしている。ビッグバンは国内だけの問題ではなく、国際的な大学間の競争も意味しているからだ。すでに日本の大学への留学生は中曽根内閣のときの目標値に遠く及ばず、逆に減少している。企業からは研究力や大学院の実力の差が指摘されており、企業からの金は日本よりもアメリカの大学に流れている。

 銀行や証券会社がつぶれることに金融ビッグバンが象徴されるのなら、大学ビッグバンはいまこれから本格的に訪れようとしている。どういう大学が生き残れるのか、“大学冬の時代”は大学全入時代を迎えるこれからがいよいよ本番突入となる。

 
 
 

 

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