多競争時代の大学と受験産業(その5)
大学審・中間まとめに見る「大学倒産の条件」
ここ数年の傾向だが、文部省の審議会や研究会、協力者会議などの答申や報告が相次いでいる。特に、大学審議会、中央教育審議会、教育課程審議会が最近立て続けに答申やまとめを出しており、フォローする身にはあわただしい限りだ。
さて、このほど出された大学審議会の中間まとめのタイトルは「21世紀の大学像と今後の改革方策について」であり、「競争的環境の中で個性が輝く大学」というサブタイトルがつけられている。本文を読むと、「改革なくして大学の生き残りはない」という姿勢が貫かれている。以前にも「“大学の倒産”があり得る」とか「“護送船団方式”の終焉」と報道されたことがあるが、今回は「教育研究の質の向上と魅力ある個性化が実現できず、社会の期待に適切に応えられない大学等においては、その存在基盤自体が危機的な状況に陥ることも予想される」と“大学の存在基盤の危機”について触れ、「大学等が廃止される場合の学生の取り扱いについて適切な方策を講じること」と大学廃止後の対策についても言及している。
国立大学についても「(国立大学として)果たすべき機能を踏まえつつ、教育研究の実施や整備が図られることが必要であり、このような機能を十分果たしていない大学については、適切な評価に基づき大学の実情に応じた改組転換を検討する必要も出てくる」と警告。これは、国立大学としての特性を失った大学は廃止も辞さないというメッセージだろう。
大学・短大は縮小、大学院は拡大の方向
大学審議会がこのように指摘するのももっともなことで、中間まとめに参考資料として添付されている「18歳人口の推移」のグラフをみると、ピーク時(1992年度)に205万人だった18歳人口は、1998年度には162万人に減少しており、さらに2009年度には120万人まで落ち込む。そのあと20年間くらいは120万人前後で推移するが、回復する時期があっても124万人止まりで、その後は再び減少傾向に入る。現在の最大のお客さんである高校新卒者の増加は今後まったく見込むことができない状態にある。
そこで、中間まとめは将来の大学の規模として、大学・短大については2009年度以降最大70万人程度の入学者数を想定している。これは1996年度入学者数と比べて10万人程度少ない。また、大学院の規模は2010年の在学者数を、これまでの進学動向に基づいた推計では25万人程度とした上で、実際には今後の制度改正や産業構造の変化などによってそれ以上の規模になるとみており、文部大臣の諮問に例示された30万人規模になることも予想されるという。また、国立大学については大学院の規模の拡大に重点を置き、それに伴って学部段階の規模の縮小を検討する必要があると述べている。
すなわち、大学・短大は縮小、大学院は拡大という方向で進み、大学・短大への志願者は学校さえ選ばなければ100%入学できるようになるというのが大学審議会の構想なのである。ところが実際には受験生は大学を選ぶので人気のない大学は定員を確保できず、経営が苦しくなる。中間まとめでは、国の財政状況も苦しいので、予算は「改革に積極的で成果を挙げている大学」「社会的要請の強い教育研究プロジェクト」「卓越した研究拠点(COE)としての大学院」に重点的に配分するとしている。従って、改革に熱心でない大学は消えることになる。
大学自らが求める改革のための仕組みと外部チェック
では、大学自らは大学の存続に大きな影響が出る評価に関してどのように考えているのだろうか。大学評価システムに関する文部省の調査結果が、今回の中間まとめに添付されているが、「大学評価の今後の在り方」の項目では、「改革に結びつける政策的仕組みが必要」という意見がもっとも多かった。政策的仕組みが大学内部の仕組みなのか、国の政策なのかはっきりしないが、たぶん、大学の組織が硬直化していることを大学自らが感じていることの現れなのではないだろうか。そこで、大学審議会は学長のリーダーシップに期待して権限を強化し、教授会の権限を制限する案を出している。
どこの大学もそうしなければならないというわけではないが、まず組織や人事にメスを入れなければならないのが日本の大学の現状ではないだろうか。そして、「政策的仕組みに」に続いて「第三者の検証」「外部評価」という答えが多かったように、内部だけのもたれ合い評価では改革が続かないため、外部の厳しい評価と検証が必要なのだろう。
この調査は学長や全学レベルで自己点検・評価に深く関わっている担当者が対象だが、学長レベルと大学審議会は共通の認識を持っているということになる。
大学倒産の危険度がわかる「危険度進捗診断シミュレーション・モデル」
これまで、大学が倒産するぞ、という脅しの声やデータばかりを集めてきたが、では大学はどのようにして倒産するのだろうか。また、倒産しないためには具体的にどのようなチェックが必要なのだろうか。
まず、どのような要素から大学が危機に陥っていくのか、について、代田恭之氏(財団法人・日本生涯学習総合研究所専務理事)のレポート(1996年)にある「危険度進捗診断シミュレーション・モデル」でみてみよう。「大学危機へのドミノ現象はどこまで進んでいるか」を大学自らがチェックできるというものである。
まず、チェック項目を順番に羅列してみる。
@志願者数の漸減
→A旧態依然の改革なき教育・研究
→B社会に開かれない閉鎖的大学
→C学内組織の硬直化
→D社会的時代的変化との乖離
→E経営と教学の対立、意志の不統一
→F教職員のモラル低下
→G受験者・学生・社会からの低い評価
→H受験者・入学者の質的レベルダウン
→I志願者数の加速的減少
→J倍率1.0倍、全員合格、定員割れ
→K入学歩留率の恒常的低下、中途退学者の増加
→L受験料・学生納付金の減少
→M助成金カット、寄付金途絶
→N管理経費・教育研究費の大幅切り詰め(借入金利息支払いの異常増大、人件費支出の増大)
→O資産売却・人件費カット・大量解雇
→P大学倒産(経営者交代、他大学への合併・吸収、系列化、公立移管、閉校)
このなかには今回の大学審議会が指摘している問題のほとんどが含まれている。すでに大学入試全体として志願者数の加速的減少が現実化しており、短大では定員割れが珍しくない。志願者数の減少と経費増によって多くの大学では受験料収益は減っており、前述したように国の助成も重点的に配分されるようになった(はっきり言って助成が減るということ)。1996年当時、代田氏は「従来の日本では(大学倒産は)レアケースだから、その悲劇による悲惨さや痛みが分からない」と指摘、「18歳人口急減による危機は、以上のようなドミノ現象により、質的内容の劣る社会的評価の低い大学・短大を順次襲っていくことは自明である」と断じた。全体としては、代田氏の言うドミノ現象はますます進んでいるように見える。各大学は、どのような展望と計画を持っているのだろうか。大学審議会が求める「競争的環境の中で個性が輝く大学」をどのように捉え、どのくらい真剣に大学の将来について考え、行動しているのだろうか。
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