多競争時代の大学と受験産業(その6)
受験人口の予測の仕方と使い方
以前、将来予測として「浪人は全国で5万人程度」「(従来型の予備校は)札幌、仙台、東京、名古屋、京都、広島、福岡にそれぞれ1校あれば十分だろう」と書いた。ちょっと大ざっぱすぎるので、今回はこの夏に発表された文部省の「学校基本調査(速報)」などを基にここ数年の動きを予測してみたい。
まず、受験人口や浪人数を予測するときに前提となる数値について考える。もっとも基本になる数値が「
18歳人口」である。受験人口の前提としては、「3年前の中学校卒業者数」を18歳人口として用いる。従って、3年後まではこの数値は確定している。それ以降は、中学校卒業率および中学在籍者の学年進行の際の減少率を予測して中学校卒業者数を算出することになる。次に基礎となる数値が「高校卒業者数」である。これは、来年度入試の場合は高校3年在籍者の卒業率を、その次からは高校の学年進行に伴う減少率と卒業率を考慮しなければならない。さらに、「現役進学率」を予測して高校卒業者の大学志願者数を、前年度の大学不合格者の「再受験率」を予測して浪人の受験者数を算出する。その和が、その年の大学志願者数となるわけだ。入試動向予測と1998年度の結果
さて、こうして予測した内容と実際の動向ではどのような違いが出るだろうか。
1998年度大学入試の結果とリクルートの予測値(「カレッジマネジメント」88、1998年1・2月号)を比較してみる。
高校の進級率の低下が受験人口を減らす
浪人の再受験率のアップについては、浪人者数が減少の一途を辿っているので影響はだんだん少なくなる。ここで筆者が注目したいのは受験人口にもっとも大きな影響を与える高校卒業者数の方である。リクルートは高校卒業者数を
18歳人口に対する比率で算出、1997年度の実績である89.5%という数値を使った。しかし、実際には18歳人口の88.8%しか卒業しなかったのである。高校3年次の在籍者数に対する卒業者数の割合は99.2%で、こちらの方は例年と同じ水準にある。実は、高校3年に進級する前に脱落した生徒が多かったということだ。これは高校中退者が増加しているデータによっても裏づけられる。ちなみに、18歳人口に対する高校卒業者の割合は、1995年度と1996年度が89.7%ともっとも高く、それ以前は1993年度88.6%、1992年度88.2%と低い。以前に戻ったという見方もできるが、今回はいったん上がった数値が下がったこと、中退者の増加が問題になっていることなどから、きちんとした対応が必要だろう。今春高校を卒業した学年を追跡してみると、高校1年から2年になるときに
96.3%に減少し、さらに2年次から3年次への進級時にはその95.8%にダウン、前述したように残りの99.2%が卒業したことがわかった。それぞれの学年の時の在籍者数を18歳人口の割合でみると、1年次96.0%、2年次92.9%、3年次89.5%となっている。ちなみに今年の高校生の割合はそれぞれ1年96.0%、2年92.2%、3年88.8%となっている。回復どころか、やや悪化気味の数値と言えるだろう(高校1年、2年、3年にはそれぞれ定時制の2年、3年、4年を含む)。18歳人口の減少に加えて高校における進級率の悪化が加わると受験人口は予測よりも減る。いずれ浪人の再受験率のアップではカバーしきれなくなり、急激な大学志願者数の減少が起きる可能性もある。高校中退者を受け入れる教育機関やバイパスコースの整備が必要だ。だが、高校中退問題を短絡的に大学入試と結びつける必要はない。この問題の克服が高校や大学という枠をはみ出し、生涯学習という観点から大学教育を見直す契機になるかもしれない。

入学者数はどこまで減少するか
2年で不合格者数が6割減少?
というわけで、将来予測はそう簡単に行くわけではないのだが、筆者が試算した予測によると、来年度の不合格者数は
15万人前後になり、2000年度には約8万6千人となった。2年間で半減どころか6割減という極端な減少になってしまう(ちなみにリクルート予測では、来年度17万7千人、2000年度15万5千人)。筆者は、大学審議会に逆らって入学超過率を10%に据え置くなど大学の必死の入学者確保があるとみている。また、高校生中退などはもっと進むだろうとも考えており、予備校など浪人を相手の産業にとってはかなり悲観的な予測と考えてもらった方がよい(もちろん、急激なビッグバン現象ではなく、ソフトランディングを望んではいる)。

不況でも浪人を引きつける都市の条件
「(従来型の予備校は)札幌、仙台、東京、名古屋、京都、広島、福岡にそれぞれ1校あれば十分だろう」ということについては、さらに説明を要する。
筆者は、大学入試センター試験の受験状況をウオッチングしている。その中で、出身高校別志願者数と受験会場別志願者数に注目してみた。現役受験生は一部の例外を除き、高校がある都道府県内の会場でセンター試験を受ける。他の都道府県で受験する人のほとんどは浪人生である。そこで都道府県別に、受験会場別志願者数から現役の出身高校所在地別志願者数を引き、仮に「現地受験浪人」とした。これはその都道府県内で浪人生活をしている可能性が高い人たちである。出身高校所在地別浪人志願者数と現地受験浪人を比べると、浪人が他の都道府県から流入しているか流出しているかの度合いがうかがわれると考えたのだ。そうして算出した浪人流入率が表に示してある。これからの大学入試における競争は国公立大学が中心になるだろうし、最難関の私立大学受験者は国公立大学との併願も多いからセンター試験受験者は大学入試の核と言うことができるだろう。そういう目で見てみると、この表はおもしろい。
浪人がどの都道府県の予備校に行くだろうか、と考えると、これまで流入率が高いのは宮城県、茨城県、東京都、京都府、福岡県である。地方で公立や私立の大学新設ラッシュが起きているのに5年前と比べても大きな変化はない。むしろ、東京や京都、福岡は求心力が高まっている。こういうデータや地元の受験人口が多いこと、最難関大学が存在することなどを考慮して前述の都市名になったという次第。
しかし、「1校で十分」としたのは数字の上でのことであって、実際には多くの都市で2校以上の予備校が存在し続けるだろう。それが競争的共存となるか、共食いになるか、は地元の事情や経営的な手腕などが複雑に絡み合うと思われるので、ここではこれ以上の深入りはしないことにする。
いずれにしても予測はかなり常識的なライン上にある。考えられる危機への対策もそう複雑なものではない。問題は実行力とタイミングである。日本政府のこれまでの政策を他山の石とすべきである。予測は正しく利用しなければ、当たったところで何の意味もない(逆に、当たらない予測でも使い道がある?)ということを指摘しておきたい。

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