多競争時代の中の大学と受験産業

「大学法人の財務状況を見る」
 「大学が倒産する」とよく言うが、学校法人が一般の企業と同じように倒産することがあるのだろうか。あるいは銀行と同じような救済策がありうるのだろうか。弁護士に意見を求めたら、救済策はありえないという。銀行と大学では社会に対する影響力が格段に差があるそうだ。また、文部省でさえ大学がつぶれる事態を想定してるのだから、銀行のような救済はありえない。弁護士は「教職員の給料が払えなくなったときが倒産のときだよ」とこともなげに言う。最後はそういうことから閉鎖に追い込まれ、学生は他の大学に引き取られるのだろうが、学校法人の経営を手にすることは理事会を牛耳れば簡単にできる。理事には親族は2名以内という制限があるから、創設者一族が抵抗しても過半数の理事を味方につけて、経営権を奪うことができるのだ。そうやって我々の知らないうちに、乗っ取られているという事態もあるだろう。また、学校法人の合併もありうる。ただし、その場合は、銀行と同じように不採算部門は切り離すということになるだろうが。
 そういうことを考えながら、文部省が発表した「1996会計年度私立学校の財務状況調査報告書」を見た。
私立大学の財務は硬直化
 それによると、私立学校の収入の推移は、幼稚園から大学まですべての学校種類で伸び悩んでおり、私立大学・短大では、特に寄付金、資産運用収入が大きく落ち込んでいる。その結果、収入では学生納付金への依存度が高まり、また、支出では人件費の割合が上がり、財務の硬直化が進んでいる。
 大学(昼間部)の財務状況をみると、収入総額は3兆8952億円、支出総額は3兆3739億円で、前年度に比べて収入総額は2.5%、支出総額は2.3%増えている。一般収入は2兆7183億円で、その71.4%を学生納付金が占めている。前年度に比べて、学生納付金は4.5%伸びているが、他の資産運用収入や寄付金は大きく減少している。金額的には一般収入第2位の補助金も2.1%の減少。一般収入以外では、事業収入が増加、借入金等収入が減少となっている。
 この結果、学生納付金が収入総額に占める割合は49.8%となり、1992会計年度の46.7%から4年間で3ポイント以上高くなった。
 消費的支出は2兆6969億円で、このうち61.2%を人件費が占めている。人件費は前年度より3.2%伸びており、人件費が支出総額に占める割合は48.9%と、1992会計年度の46.9%よりも2ポイント高くなった。
 金額的には、学生納付金が約1兆9410億円、人件費が約1兆6500億円で、単純に考えると、学生納付金の85%が人件費に回っていることになる。
 収入の柱になっている学生納付金の増加は学生数・入学者数の増加によるが、これは大学の新設や学部増設などによるところが大きく、全体統計に現れる学生納付金の増加は必ずしも各大学の収益向上を反映しているわけではない。また、18歳人口の減少によってさらに学生確保が困難になっていること、不況下にあるため授業料値上げができない状況にあること、国や地方自治体の財政状況が悪いので補助金の増加に大きな期待はできないことなどを考えると、今後の大幅な収入増は見込めない。しかも支出の面では人件費の割合が高まり、財務構造の硬直化が進んでいるので大学の財務状況は今後ますます厳しさを増すことになるだろう。学生の確保と同時に、教職員の削減、組織のスリム化などのリストラ策が進められるものと思われる。
 
短大全体の財務規模は縮小
 短大(昼間部)の収入総額は5867億円、支出総額は5022億円で、前年度よりも収入で7.3%、支出で3.2%減少している。これは、四年制への移行に伴う短大の廃止や入学者数の減少などで短大全体の規模が縮小していることによるが、支出よりも収入の減少が大きいのは短大の危機を示している。
 収入の内訳をみると、学生納付金が3.1%の減、補助金と資産売却収入がいずれも20.1%の減、資産運用収入が40.6%の減などとなっている。支出は、人件費が0.8%伸びているが、他は軒並み減少している。全体の規模が縮小する中での人件費のアップは短大の財政状況を悪化させている。
 収入総額に占める学生納付金の割合は76.1%、支出総額に占める人件費の割合は54.6%で、いずれも大学の場合よりも高い。1992会計年度はそれぞれ69.7%、48.3%だったので財務の硬直化はかなり進んでいると言えよう。
大学の収支は赤字? 黒字?
 大学の財務状況は人件費の増加や収入の学生納付金への依存などにより硬直化が進んでいることがわかったが、各学校法人の財務状況は情報公開が進んでおらず、実態がわからないことが多い。また、発表される内容は専門家でもわかりにくいといわれる。したがって我々素人はなおさらわからないことになるが、ここでは首都圏の大規模大学を代表するA大学とB大学の数値をみてみよう(なお、A大学の数値は1996年度、B大学の数値は1997年度のもので、いずれも高校など付属の学校を含む学校法人全体の決算値である。B大学は医学部および付属病院を含み、A大学は含まない。比較に使う私立大学連盟調査の数値および前述した文部省調査の数値はいずれも1996年度のものである)。
 まず、単純に収支状況をみてみよう。A大学の消費収入は消費支出を30億円以上上回っており、逆にB大学は消費支出の方が消費収入よりも98億円多い。この消費収支の結果から単純にA大学を黒字、B大学を赤字とみる見方もあるが、学校法人の場合はそう単純ではない。実は、消費収入とは帰属収入から基本金組入額を引いた額なので少なめになり、支出超過になりやすい数値なのだそうだ。これは、文部省が大蔵省と予算折衝をするときに私学助成の予算を多く獲得するための作戦だという話もあるが、一般の企業会計と同じような見方をするならば、消費収入ではなく、帰属収入と消費支出との間で計算した結果を見た方がわかりやすそうだ。ただし、基本金は学校を維持運営していく上で重要な要素であり、その内容はよくチェックする必要がある。すなわち、基本金には(1)第1号基本金=学校法人が取得した固定資産(2)第2号基本金=理事会で将来取得すると決められた資産取得に当てる金銭その他の資産の額(3)第3号基本金=基金として保持し、運用する金銭その他の資産の額(4)第4号基本金=恒常的に保持すべき資金(運転資金)の額、の4種類があり、学校が教育・研究を行っていく上で欠かせない資金(資産)である。
 話を戻して、帰属収入から消費支出を引いた額を経常収支と考えると、A大学の経常収支は106億円、B大学のそれは115億円の収入超過となる。すなわち、消費収支では赤字だったB大学も黒字になるわけだ。では、私学経営は安泰かというとそうではない。B大学では帰属収入に対する消費支出の割合が年々高くなっており、1975年度78.0%、1990年度85.0%、1997年度93.5%と経常収支赤字ラインぎりぎりまで迫っており、今後もさらに高まるだろう。これは、前述の文部省調査でも指摘したように、長引く不況で授業料・受験料などを上げられず、少子化の影響で受験料収入も減少すること、かといって「大学冬の時代」に生き残るためには教育水準を上げ、研究にも力を入れて学生確保を図らなければならないので経費は上がるばかりという状況にあるからだ。消費収入に対する消費支出の超過額の累計は、A大学が約212億円、B大学が約333億円にのぼっており、この2大学に限らず、私立学校全体として増加傾向にあることは確かだ。私立学校は、学生・生徒の量の確保と教育・研究の質の向上を図りながら人件費などの支出は抑制するという厳しい経営が求められている。
大学は授業料に頼るしか道はない
 帰属収入がどのような内訳になっているか、また、帰属収入がどのような割合で支出に回っているかをみてみよう。
 A大学の場合、収入の59%が学生生徒等納付金、12%が補助金、8%が資産売却収入となっている。B大学の場合は、学生生徒等納付金は収入の56%、補助金は9%である。B大学は医療収入が23%もあるので、この2大学を単純比較はできないが、いずれにしても学生生徒等納付金への依存率は高いと言えるだろう。帰属収入からみた支出の割合をみると、A大学では収入の51%が人件費に使われ、27%が教育研究経費に回っている。B大学では、56%が人件費、32%が教育研究経費(医療経費11%を含む)である。収入の半分以上が人件費であり、2割以上が教育研究経費になるという構造は2大学に共通している。学生・生徒からの授業料や受験料が教職員の給料にどのくらい回っているかの目安として、学生生徒等納付金に対する人件費の割合を出してみると、A大学86.2%、B大学99.9%、文部省調査75.8%だった。両大学とも、人件費のほとんどは学生・生徒が負担していると言うこともできる。これは、教育に力を入れなければならない一つの根拠でもある。アメリカの大学の場合、ハーバード大学は1兆円の基金を持っていると言われるなど、寄付や基金によっても大学の財政が支えられている。しかし、日本では社会風土としても税制などの社会システムとしてもアメリカと同じようなことは期待できないので、ほとんどの日本の大学は、教育力を高めることによって学生を確保し、授業料に頼るという生き残り策しかないだろう。
学校に柔軟に使える資金があるかどうかがポイント
 教育研究力を向上させるためには、財政基盤がしっかりしていること、ある程度自由に使える資金があることなどが必要であろう。そこで、貸借対照表から財務比率をいくつかみてみよう。
 まず、自己資金(基本金+消費収支差額)に対する固定資産の比率で表す固定比率を算出すると、A大学133.1、B大学111.3となる。この数値は、自己資金をどの程度固定資産に投下しているかの目安となり低いほどいいが、2大学とも日本私学振興財団が全私立大学法人に対して行った調査結果(107.7/1996年度)よりも高くなっている。また、学校法人の短期的な支払い能力を判断する指標の一つである流動比率(流動資産/流動負債)は、全私学法人が202.6であるのに対してA大学106.7、B大学155.9で、こちらは数値が高い方がよいので、やはり2大学とも平均よりも悪い。次に、総資産に対する他人資金の比重を評価する比率として総負債(固定負債+流動負債)を総資産で割った総負債比率をみると、全私学法人が22.6、A大学が33.8、B大学が17.2となっている。これに関しては、平均よりもA大学は悪く、B大学はよいという結果になった。最後に、総資産に対する消費収支差額(収入超過がプラス、支出超過がマイナス)である翌年度繰越消費収支比率をみると、全私学法人がマイナス7.5であるのに対して、A大学はマイナス9.0、B大学はマイナス5.2で、いずれも支出超過ではあるが、全私学法人の数値との比較では総負債比率と同様の結果となった。
  学校の設備が古くなったときに教育に支障がないように、あるいは教育の質を高めるために新しい設備が導入される必要がある。そのための目安として、減価償却累計額に対する減価償却組入額の比率を参考にしてみよう。私学法人全体の比率は12.2%、A大学のそれは2.47%である。12%でも低いと指摘する人もいるので、A大学の数値はちょっと心許ない。
 次に、学校の維持・運営に必要な資産である基本金の種類別比率をみてみよう。第1号基本金、第2号基本金、第3号基本金、第4号基本金の順にそれぞれの割合を並べると、次のようになる。
<A大学>81.2%、3.8%、12.4%、2.5%
<B大学>77.1%、6.3%、14.5%、2.1%
<大学法人(文部省調査)>88.9%、5.1%、3.9%、2.1%
<私学法人(私学振興財団)>74.0%、3.6%、5.2%、2.1%
 学部・学科の新増設が盛んに進められてきた大学は第1号の割合が高まり、これからやるという計画が理事会で認められたところは第2号の割合が高いことになるなど、それぞれの学校法人の動きを見るのに役に立つだろう。ただ、私学法人全体で4030億8千万円の基本金未組入期末残高(1996年度末現在)があるというデータもあるので、必要な資金額組み入れられているかどうかも大きなポイントであろう。
財務状況の情報公開を
 今回は、私立学校の財務状況をみてきた。筆者は会計に疎いので的はずれなところも多いだろう。また、具体的な数値を見てきた2大学はたまたまデータを目にしたというだけで、特別に選んだ訳ではない。この大学は財務的にはトップクラスだと思われ、他にかなり厳しい大学はたくさんあるだろう。ただ、規模が大きく入試の難易度が高ければ安泰というわけにはいかない。
 私立学校が生き残ろうとするならば、ことの是非はともあれ、教育改革・組織改革は避けられないだろう。その際重要なのは教職員の意識改革である。教育改革でも組織改革でもシビアな改革は、利害に直接関係がある人間がああでもない、こうでもないとやっていたのでは埒があかないだろう。第3者(学外も含む)を改革案作りに参画させ、決定権を持たせることが重要だと考える。ことに、財務ということになれば学外の監査役が必要だ。経営のプロも必要になってくるだろう。教職員の意識改革には何と言っても情報公開が前提となる。現実を正しく認識しなければ、自らに厳しい選択はできないからだ。私立学校経営者も覚悟して改革に取り組み、財務状況のガラス張りを実行することが私立学校の生き残りの必須条件だと申し上げたい。