多競争時代の中の大学と受験産業(その10)
1999年度大学入試:大淘汰時代へのメルクマール
センター試験自己採点と提携
1999年度大学入試センター試験が終わってほとんどの受験生は青くなった。試験が難しくて希望する得点ができなかったのだ。受験を第1志望大学から他へ変えるべきか、私立大学を一つ多く受けようか−−。受験生は落ち込んだ。しかし、同じ大学を受けようとする受験生がみんな低い得点だったら心配することはない。2次試験勝負になるからだ。その判断の手がかりになるのが、模試業者や予備校が実施しているセンター試験自己採点の集計データだ。
今年は、1月16日・17日の土日にセンター試験が終わった後、各社・予備校が月曜日にデータを回収、競って高校の先生対象の説明会を開催した。東京では21日の木曜日、同じホテルで午後1時からベネッセ・駿台予備学校が、午後2時から旺文社・大進研が説明会を開き、高校の先生が2階と3階を往復した。
自己採点というのは、受験生が自らの記憶に基づいて採点をし、高校を通じて、あるいは直接業者に採点結果を持ち込んで、データを集計するもの。センター試験が終わって1週間以内には高校の先生や個人の手元に集計結果や志望大学の合格可能性を示した資料が届く。それをもとに高校の先生は受験指導をする。
自己採点が始まったのは、国公立大学入試に共通一次試験が導入された1979(昭和54)年度から。全国模試を実施する会社や予備校が無料でデータを作成、高校への提供を始めた。高校は全国データがなければ受験指導ができなくなり、模試業者や予備校に頼るようになった。全国データを作成できなかった予備校の中には「自己採点データに負けた」と消えて行ってしまったところがいくつもある。
今年の自己採点では、予備校グループの大進研(大学進学研究会)と旺文社が提携した。すでにベネッセコーポレーションと駿台予備学校が共同で自己採点を実施。河合塾も模試などでZ会と提携しており、予備校・模試業界も金融機関同様、提携の動きが進んでいる。少子化で経営規模が縮小しているのに自己採点には膨大な資金と手間が必要なこと、高校が自己採点業者の数を絞る傾向にあることなどがその背景にある。
自己採点データの規模と内容
1999年度センター試験自己採点集計の各社のデータを見てみよう。
まず、集計者数であるが、発表されたままの数値を並べると、代々木ゼミナール41万5,512人、ベネッセ・駿台39万4,598人、河合塾38万7,898人、旺文社・大進研32万6,047人となる。センター試験の志願者58万人と比べても6割前後から7割の受験生のデータを集めていることになり、驚異的な数値と言える。
統計学上はいずれも十分に有意な規模であり、バランスよく集めさえすればこれらの数値の差は大したことではない。しかし、各業者にとってはお客さんになる有力高校が多く入っていればいるほど自己採点による営業効果は上がるので、人数の多さを競っている。データ上のバランスで言えば、たとえば、受験生の学力の分散が実際のセンター試験受験者の分布の形に近い方がよいし、地域的なバランスも気になるところだ。現浪比率でいうと、実際のセンター試験志願者数の浪人比率26.9%に近い方がよいということになるだろう。また、自己採点データを高校経由のみで集めるか、個人からの持ち込みや郵送も認めるか、によっても信頼性は異なる。同じ生徒のデータがダブる可能性があるからだ。自己採点データを予備校が特待生(浪人して予備校に入学したら授業料を減免するという制度)の資料にすると宣言したら、浪人覚悟の受験生は個人提出のデータには高い得点を書くだろう。データの信頼性をはかる材料は集団の大きさばかりではないのである。
確信があって言うわけではないのだが、個人的な感想を述べると、代々木ゼミナールの40万人を超える規模というのは俄には信じがたい数値だ。というのは、筆者も数年前まで10年以上にわたって自己採点データを集めに高校回りをしたことがあり、代ゼミがベネッセや河合塾以上に高校から自己採点データを集めているという感触はまったくなかったからだ。また、センター試験を受験した浪人が5万人というのも予備校生としては私立系が多いと言われる代ゼミにしては多いような気がする。根拠は持ち合わせてはいないが、個人提出のデータが多いのではないだろうか。
高校参加を中心とした大学受験模試でしのぎを削っているのが、ベネッセの進研模試と河合塾の全統模試だが、センター試験自己採点でもこの両グループは拮抗していることがわかる。集計者数も総合平均点も浪人比率も似たような数値を示しており、同じ土俵で闘っている様子がうかがわれる。旺文社・大進研は昨年までは独自に集計作業を行っており、今年からの提携なので比較はしにくいが、浪人比率から見て現役生を抱える高校へもかなり浸透していることがわかる。
なお、ここに示した4グループの浪人者数を合計すると約17万人になり、これだけでもセンター試験の浪人志願者数15万4,768人をオーバーする。ベネッセ・駿台と河合塾の浪人数は5教科6科目以上受験者なので、アラカルト受験者を加えると(浪人比率が同程度だとして)さらに6万人ほど増える。実際の浪人受験者は14万人ほどだと思われるので、浪人の自己採点参加者はそれよりも10万近く多いことになる。これは、受験生が複数の自己採点集計に参加していることが原因であろう。従って、各グループが集計した浪人数がそれぞれの予備校生の数というわけにはいかない。系列の予備校や模試参加校、個人参加も入っているだろう。また、各グループによってその度合いも異なる。
■1999年度センター試験自己採点の規模
集計人数 5-6人数 総合平均点 浪人比率
代ゼミ 415,512 256,182 504.2(-19.3) 12.8%(53,315/415,512)
ベネッセ・駿台 394,598 235,941 511.7(-18.9) *19.2%(45,245/235,941)
河合塾 387,898 229,730 511.1(-18.7) *19.1%(43,842/229,730)
旺文社・大進研 326,047 194,042 504.1(-16.6) 8.5%(27,794/326,047)
(注)「5-6人数」は5教科6科目以上受験者の集計者数。「浪人比率」の*は、「5-6人数」における浪人比率。
自己採点データの意味するもの
各業者は、各大学・学部・学科のボーダーラインを予測して発表している。それを転載している週刊誌も売られている。このボーダーラインが各業者の腕の見せどころなのである。
今年のようにセンター試験が難しく、受験生が弱気になっているときには自己採点で書いた大学と本来の志望大学が異なり、さらに受験大学を変えるということが生じやすいので、機械的なボーダー算出をやると大きなずれを生じやすい。いくらデータの規模が大きくてもコンピュータが計算したボーダーは信頼しにくいということになる。そこで、人間の判断を入れることになるのだが、業者によって志望大学の書かせ方が異なる。
実際の国公立大学入試では前期日程で1校、後期日程で1校しか受験ができない。業者の中には実際の組み合わせで書かせるところと、日程に関係なく志望大学を4、5校書かせるところがある。前者のデータは、調査時点で入試をやると仮定すると実際の志願分布に近いことになる。実際には、今年の場合は弱気になって受けやすい大学に集中している可能性があるから、自己採点データを見たあとに本来の志望大学受験に戻す受験生の動きを予測してボーダーを決めることになる。後者のデータは、いくつも大学をかけるから、本来の志望大学も混じっていることになる。従って、弱気から強気に変わる度合いを大学・学部によって見計らわなければならず、それがノウハウになる。このように、同じように見えても、データの集計の仕方や予測の仕方が業者によって違うのである。そして、ボーダーラインの意味も微妙に異なる。合格可能性が50%ラインのところもあるし、60%ラインのところもある。
共通一次試験の時代の話だが、ある予備校のボーダーをみると、その予備校の地元の大学のボーダーがいやに低く、ライバルの予備校が存在する地域の大学のボーダーが異常に高いと感じたことがあった。それが2、3年続いた。「地元の大学のボーダーを低くすると受験者が増え、浪人を多く出る。逆に、ボーダーを高くしたライバル予備校の地域では受験生が慎重受験をして入りやすい大学を受けるので浪人は少なくなる。そうして自分の予備校の生徒を増やし、ライバル予備校の地域の浪人を少なくしてつぶそうとしているのだ」という噂がまことしやかに流れた。自己採点データを集める予備校の地元だと低学力層の合格データまで多く集まり、低いボーダーでも自信を持って出せるが、データが少ない他地域の大学は高めに出さざるを得ない、という傾向もあるので自然にそうなったかもしれず、意図的なやり口だったとは断言できないが、予備校戦争の一断面を見る思いがした。
そういう特殊事情はともかくとして、高校の先生は各業者の内容と違いを知り、どのように利用するか工夫しなければならないし、受験生は自分の受験姿勢をはっきりさせてから利用しないと、そのときの精神状態で都合のよいように解釈し、いつまでも受験大学が決まらないことになる。
1999年度入試は大淘汰時代への転換点か
大学入試は、高校、模試業者、予備校、大学にとって一大イベントである。そして、それぞれ思惑が異なる。高校は、生徒を大学に押し込もうとするけれども、予備校は、現役生にはできれば浪人覚悟でチャレンジ受験をしてもらいたい。大学は、たくさんの志願者を確保して、できれば水増し入学を増やし、来るべき定員割れ時代に備えたい。これから予備校と大学の生徒の取り合いが始まる。大学がちゃんと対応しなければ5月の連休明けには大学から予備校へ流れる学生が多くなる。いわゆる「不本意入学−再受験」組だ。いずれにしても、この春は予備校にとっても大学にとっても厳しいものになるはずだ。センター試験まではまだ平和だが、私立大学入試の幕が開き、国公立大学2次試験が始まると危機の実態が現実のものとなって伝わってくる。後世、1999年度大学入試が大淘汰時代への大転換のイベントとして記憶されるようになるかもしれない。
<参考>自己採点関連ホームページ
代々木ゼミナール http://www.yozemi.ac.jp/
駿台予備学校
http://www.sundai.ac.jp/yobi/河合塾 http://www.kawai-juku.ac.jp/99center/
大進研 http://www.dainet.ac.jp/
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