多競争時代の大学と受験産業(その11)
今年の私立大学入試はどのように動いているか
注目の私立大学入試が3月入試(後期入試)など一部を除いて終了した。まさに悲喜こもごもである。いや、志願者が増加した大学とて来年以降を考えれば安閑としていられないのだから、「悲々さまざま」と言った方がよいかもしれない。俳優の広末涼子が推薦入試で合格した早稲田大学は志願者増が報道されているが、当の教育学部は減少し、午後の1時から授業が受けられる昼夜開講制になった社会科学部の志願者が増えた結果らしい。ある早大生に聞いたら、「教育学部を避けるのが受験生心理ですよ」と解説してくれた。タレント効果は成果を挙げなかったようだ。
志願者は、一般入試で10%、推薦で11%の減少
旺文社の「大学進学インフォメーション」2・3月号には、「東京・関西地区は堅調、他は減少の方向」という見出しが立っている。同社の調査によると、1月末現在の全国140大学の志願者数は前年比で10%の減少で、最終的には8%程度の減少になると予測している。地区別では、北海道・東北地区が15%の減少、関東・甲信越地区が11%の減少、北陸・東海地区が15%の減少、関西地区が6%の減少、中国・四国地区が13%の減少、九州地区が同じく13%の減少となっている。関東・甲信越地区の減少率が大きいが、東京地区だけでみると6%の減少率になっており、これらの数値が、見出しの「堅調」という言葉になって現れたようだ。
関西から関東までの大学別でみると、減少率が高いのは愛知学院大学の33%減、阪南大学の32%減、亜細亜大学の30%減、大阪経済大学の27%減、東洋大学の24%減、拓殖大学の15%減、中京大学の15%減など。逆に増加したのは、京都学園大学の65%増、武庫川女子大学の34%増、関西外語大学の12%増、同志社大学の4%増など。東京地区では、学習院大学、上智大学、立教大学が1〜5%程度の減少率にとどまっており、旺文社では「地区及び難易レベルでの2極化が進んでいる」と分析している。
以上は、一般入試の話だが、推薦入試はどうだろう。同誌によると、一部の集計だが、私立大学の志願者数は11%の減少、私立短大は12%の減少となっている。合格者数は、大学が7%の増加、短大は7%の減少。大学は定員が増加、短大は減少ということの影響もあるが、大学の場合、入学手続き率が下がることへの恐れから合格者数を増やしているものと思われる。もちろん、その裏には将来の志願者数激減−定員割れへの恐怖が潜んでいる。短大の場合は合格者を多く出したくても出せないところまで来たのかもしれない。公表しない短大を含めると定員割れがますます進んでいるということになろう。
推薦入試は「志願者減、合格者増」で易化傾向強まる
過去の大学入試をみると、改革も変動も西日本から始まって全国に広がることが多い。昔「ひかりは西へ」という新幹線のキャッチコピーがあったが、大学入試では「入試は西から」である。複線入試、公募制推薦入試、地方試験など多くの流れが西から始まった。私の記憶では、関東で始まったものは、一芸一能入試、試験日自由選択制、ベスト2入試などだが、これも西から始まった入試の多様化のなかの一つのアイデアであって、すでにできていた大きな流れに合わせたものと言えるだろう。
そこで、京都の予備校・関西文理学院がまとめた関西地区の私立大学入試状況をみることにする。
まず、推薦入試の志願動向をみると、全体として7%の減少となっている。募集人員は10%増加しており、合格者はそれを上回る15%増となっている。かつては一般入試以上に加熱し、激戦といわれた公募制推薦入試が全体としてはやさしい入試になっている。
志望者を学部系統別にみると、志願者増となったのは理・工学系(12%増)と医・歯・薬学系(16%増)だけ。減少率が大きいのは文学系の22%減、法学系の14%減、経済・経営・商学系の8%減など。大学別にみると、龍谷大学が15%減、京都産業大学が16%の減だった。京都産業大学は指定校推薦制度の実施に伴い、公募制推薦入試の募集人員を30%削減しており、結果的には厳しい入試になっている。大学側は受験人口減対策として推薦入試で学生を確保したいところだが、公募制推薦入試はやれば集まるという時代ではなくなっており、京都産業大学のように指定校推薦や建学の精神に則った特定の条件による推薦、AO入試などにシフトしていくだろう。
合格者をみると、学部系統別では、経済・経営・商学系の43%増、理・工学系の33%増、社会学系の26%増などが増えており、合格者が減少したところは文学系(6%減)、外国語・国際学系(4%減)の2つ。ほとんどの学部系統が「志願者減、合格者増」のパターンになっている。
今年の推薦入試の傾向をみると、女子の資格志向が強まっており、実質倍率で京都女子大学の食物栄養学科が21.2倍、同志社女子大学の管理栄養士専攻が11.5倍、武庫川女子大学の管理栄養士専攻が12.9倍を高い数値を示している。関西文理学院では「教育学系や社会福祉系、薬学系などの人気も相変わらず高い」と分析している。
【グラフ】関西私大公募推薦入試状況(98年度=100、12/14現在/関西文理学院調べ)
募集人員 志願者数 合格者数
文 105 78 94
外国語・国際 97 95 96
社会 127 98 126
法 106 86 116
経済・経営・商 116 92 143
理・工 110 112 133
家政・生活科学 103 99 104
医・歯・薬 98 116 100
合計 110 93 115
2極化が進む関西地区一般入試
関西地区の一般入試はどうだろうか。関西文理学院は全体として「関関同立4大学を中心に中堅から上位校に志願者が集中しており、私立大学入試の2極分化がさらに進みそうだ」とコメントしている。
志願者が増加している大学に注目すると、立命館大学や近畿大学が日程を変更したため、関西大学、関西学院大学の志願者が増えた。また、1月入試や試験日自由選択制を導入した摂南大学や武庫川女子大学も大幅に志願者を伸ばした。B方式を導入した同志社大(工学部)や京都産業大学も志願者集めに功を奏している。今年は、日程変更による試験日バッティングの回避や入試方法の改革が効果が薄れつつあるもののまだ志願者増につながっているようだ。
合格状況をみると、B方式の導入で志願者を増やした同志社大学工学部は、A方式・B方式の掛け持ち受験が多かったため、「実質倍率としては低調だった」(関西文理学院)という。中堅から下位の大学では合格者を絞る傾向が目立ち、下位校では志願者数が昨年の合格者数を下回るところもあったらしい。この場合、合格者数を絞ったというよりも、合格者を増やせなかったということになる。
■主な関西私大の実質倍率の推移(関西文理学院調べ)
97年 98年 99年
●京都産業大学(前期)
経済学部 3.6 3.0 3.0
経営学部 4.5 3.0 3.3
法学部 2.8 2.7 2.4
理学部 2.5 2.8 2.6
工学部 4.8 4.5 4.1
●同志社大学
法学部 3.0 2.6 2.5
工学部 1.9 1.7 2.3
●龍谷大学(前期)
経済学部 4.3 5.5 4.5
経営学部 4.8 5.5 4.3
法学部 3.1 3.9 3.4
社会学部 5.4 3.8 5.4
国際文化学部 4.3 3.5 3.9
●立命館大学(後期を除くすべて)
法学部 4.0 4.0 4.5
経済学部 3.1 4.5 3.4
経営学部 4.2 5.4 3.4
産業社会学部 5.0 4.1 5.1
国際関係学部 7.5 6.1 6.0
政策科学部 5.0 6.3 3.6
文学部 5.6 4.6 3.6
理工学部 3.1 3.4 3.0
●関西大学(AS日程)
法学部 3.5 2.7 4.8
文学部 6.4 4.4 4.2
経済学部 4.4 4.8 5.6
商学部(前期) 8.1 6.3 6.2
社会学部(前期)7.7 6.0 5.1
総合情報学部 10.1 6.7 6.2
工学部 2.3 2.5 2.7
●関西学院大学(A日程)
文学部 3.2 3.6 3.6
社会学部 4.7 4.0 3.7
法学部 2.5 2.9 2.8
経済学部 3.6 3.5 3.8
商学部 2.8 4.7 3.8
総合政策学部 3.2 3.1 2.8
理学部 2.3 2.3 1.8
●大阪学院大学(A・B・センター)
流通科学部 4.5 3.1 1.8
経営科学部 4.7 5.1 1.9
経済学部 4.3 5.5 2.0
法学部 2.4 7.8 1.9
外国語学部 4.6 4.0 2.1
●大阪経済法科大学
法学部 2.7 1.4 1.8
経済学部 3.7 1.9 2.3
●阪南大学(一般)
経済学部 4.4 2.6 2.0
流通学部 2.5 2.2 1.7
経営情報学部 5.1 3.0 2.5
1999年度大学入試にうごめくもの
以上の動きはまだ最終データではないが、旺文社にも関西文理学院にも共通して出てくる言葉が「2極分化」「2極化」である。これは、東京地区よりも地方の大学の方が、上位大学よりも下位大学の方が、早く志願者減、実質倍率大幅ダウンの減少が現れることを指摘している。
実際に関西地区の大学をみると、上位大学の実質倍率はまだ高い数値を示しているが、下位大学になると2倍台が多い。2倍を切るところも多く見られるようになった。これが一つの2極分化の例である。
全体を眺めると、上位大学であっても倍率ダウンの方向にあることがわかる。分析記事で、「隔年現象」「昨年の反動で上がった」などと書かれていても、よく見ると、昔のような倍率に戻ることではなく、「前年比で上がった」「他の大学・学部よりも数値が高い」という意味で使われていることが多い。当然ながら全体として低倍率に収斂しようとしている。上位大学の実質倍率の中に2倍台がちらほら見えだしたのも気になるところだ。また、かつてはセンター試験を利用すると志願者数がどっと増え、それを加えた倍率が高くなったものだが、今年はセンター利用試験を加えても低倍率のまま、という大学も目立つ。
前号で、1999年度入試が転換点になるかもしれないと書いたので、気になって私立大学の動向を調べてみたのが今回のレポートである。今のところはまだ、あっと驚くような変動はないようである。しかし、事態は徐々に進んでいる。データがそろうのは先の話になるが、うごめいている胎動を見逃さないようにしたい。
|ERIX-Pressへ|ただ読みWeb文庫へ|「多競争時代の中の大学」目次|前の回へ|次の回へ|