|ERIX-Pressへ|ただ読みWeb文庫へ|「多競争時代の中の大学」目次|前の回へ|次の回へ|
多競争時代の中の大学と受験産業<その15>
“予想”を生かす組織、“予想”に殺される組織
株や競馬の世界には予想を商売にしている人がいる。私たちも大学入試における志願者数や入学者数を予想しているからいわば“受験界の予想屋”である。しかし、株や競馬のように厳しく当たりはずれをチェックすることはない。果たしてそんな甘いことでいいのだろうか。大学によってはそうおいう予想データをもとに中期・長期にわたる戦術・戦略を練っているのかもしれないのだから責任がないことはない。そんな責任を感じて、というわけでもないのだが、過去の予想データを検証してみることにしよう。
リクルートの
大学入試予想データを検証する
この業界でもっとも影響力を持っている予想データはリクルートのものであると思われるので、自分のことは棚に上げて『カレッジマネジメント』誌に発表された「高卒進路動向予測」をさかのぼって見てみよう(ここで取り上げたデータは1991年1・2月号、1994年1・2月号、1997年1・2月号、1999年1・2月号に掲載されたもので、それぞれ91年予想データ、94年予想データ、97年予想データ、99年予想データとする)。
まず、1999年度の学校基本調査(速報)が出たのでその入試データと比較してみよう。99年度入試における大学・短大の志願者数は93万1,839人、入学者数は75万8,533人である。これに対し、91年予想は志願者数を79万6千人としており、実際よりも約13万6千人少ない数値を出していた。94年予想は差が2万人以内に縮まり、97年予想は2千人、99年予想は4千人の差しかなかった。97年、99年は正確な予想だったと言える範囲だろう。
入学者数はどうだろうか。99年予想を除いていずれも低い数値が算出されており、91年予想は約5万人、94年予想は約2万人、97年予想は約1万人実際より低い。99年は一転して約1万6千人多い77万4,460人の予想が出ている。
予想と実際の差を、志願者数と入学者数で比べてみると、91年、94年のデータでは志願者数で実際の数値との乖離が大きく、97年、99年のデータでは入学者数の予想が実際よりも大きくずれている様子が読みとれる。これは、志願率が急速に伸びていた時期は志願者数の予想が難しく、入学辞退や志願者減で入学者の確保が難しくなり、定員割れが話題にされる最近の状況では入学者数が読みにくくなったというところだろうか。
志願者数の読みに深く関連する現役志願率をみると、99年の現役志願率を94年予想では54.8%、97年予想では54.9%、99年予想では55.4%としており、実際は55.5%だった。現役志願率は83年以降伸び続けており、5年ごとに年平均アップ率をみると、85年〜90年は0.8ポイント、91年〜95年は1.0ポイントと急上昇を続けた。96年以降は0.2〜0.5ポイントアップで、それまでと比べて頭打ちの傾向になっている。実際の動向を反映して97年予想では毎年0.8ポイント上昇することを想定しているが99年予想では94年予想と同じ0.4ポイントアップに戻っている。この結果、2009年の現役志願率は、94年予想58.8%、97年予想62.9%、99年予想59.4%となっている。高校卒業者数を約110万人と想定すれば2.5%の違いは2万7,500人に当たる。
大学・予備校の危機感と予想データの活用
この種の予想というのは当たるに越したことはないが、はずれたからといって価値がなかったとはいえない。予想は未知の状況を仮の数値で設定し、将来計画を立てるためのものだからである。何事も現実の状況が目前に現れてからでは手遅れなのである。
たとえば、91年予想をみると、その後の推移を実際よりも低めに見積もっており、志願者数は92年入試で約2万人、95年入試で約11万人低い数値を予想していた。この予想をもとに入学志願者確保の対応策を大学が考えたとすると、かなり危機感を持った厳しい内容になったはずである。91年当時から入試改革、教学改革に手を着け、それが成功した大学にとっては予想数値が低めでかえってよかった、ということになるだろう。一方、「どうしよう」とおろおろするだけで過ごしてきた大学にとっては、現実の志願者数が思ったよりも減らなくてほっとした。実際には92年をピークにあとは下がるばかりという現実は誰にでもわかりきったことだったから志願者数が予想データを上回っていたとしてもそれは気休めにしかならないということもわかっていたはずだった−−。
2008年の志願者数は91年予想では62万人だったのが97年予想では76万人になった。「志願者がそれほど減らなかった」ということを無策の言い訳にしてきた大学は「じたばたしなくてよかった」と思ったはずだ。たとえ76万人が信頼できる数値だったとしてもそれはピーク時の62%にしかならない。危機に変わりはないのだが、人間はどんなことになっても自分がやってきたことを正当化する性質を持っているそうだから予想の上方修正はそういう人たちにとって心強く写ったに違いない。しかし、99年予想では2008年の志願者数は65万人とされた。全入の時期も2009年からというのが2007年からと前倒しの予想に変わった。大学では志願者の減少が加速され、足下がぐらぐら揺れている。さて、これからどうしようというのだろうか。
浪人を相手にする予備校業界にも同じことが言える。現実の志願者数、入学者数はいずれも91年予想よりも多かったが、入学者数よりも志願者数の方が高く出たので結果的に不合格者数は予想よりも多めに出た。生徒数急減を覚悟していた予備校は低めの減少率に胸をなで下ろし、思い切った改革が先延ばしされた(思い切った改革をしたくなかった、あるいは考えつかなかった、あるいは考えようともしなかった、というのが当たっているかもしれない)。いま、閉校の憂き目に直面しようとしている予備校は多い。
予想データというのはどのようにも使える代物だ。大学や予備校が危機感を持って生き残りに情熱をかけようとすれば、楽観的な予想でも悲観的な予想でも十分に活用できた。「何とかしよう」ではなく、「何とかなるだろう(何とかなって欲しい)」と思っている組織は、どんなデータや提言があっても所詮消えゆく運命にあるということをこの間の現実が証明しているように思える。
私立大学は合格者・入学者とも水増し率が低下
ここで、学校基本調査(速報)と同時期に文部省から出された「国公私立大学入学者選抜実施状況」をみてみよう。最近の志願・合格・入学の状況から大学の動きが探れるかもしれない。
国公立大学と私立大学に分けて動きをみることにする。志願者数の増減は、96年入試では前年比で国公立1%増、私立3%減だったが、98年は国公立4%減、私立7%減、99年は国公立3%減、私立9%減とご承知のように減少を続けている。特に私立大学の減少率が高い。これに対して合格者数の前年比増減は、国公立大学が96年0%、98年1%減、99年1%減、私立大学が96年4%増、98年1%増、99年0%となっている。いずれも大きな変化はないとも言えるが、志願者数の減少に伴って合格者も出しにくくなっていることがわかる。
では、募集人員に対してどのくらいの水増しで合格者を出しているかとみると、国公立大学の水増し率(定員超過分)は95年から99年まで順に24%、23%、21%、20%、20%と推移しており、私立大学では144%、150%、153%、151%、144%となっている。入学者数の水増し率の推移を同様に見ると、国公立大学では98年まで4%が続き、99年には5%となっている。私立大学では19%、20%、19%、18%、14%と推移。99年で言うと、私立大学では募集人員の2.44倍の合格者を出し、1.14倍の入学者を確保したということになる。3年前には2.50倍の合格者を出し、1.20倍の入学者を確保したこともあるが、合格者数も入学者数も減少している私立大学の現状が顕著になってきている。
“予想”が不要になる時代、到来か
リクルートの「高卒進路動向予測」は、97年は2014年まで、98年は2015年までのデータが掲載されていたが、99年は数値が大きく変更され、2009年までのデータしか掲載されていない。『カレッジマネジメント』誌には、記事の冒頭で「18歳人口の減少期以降、年々高卒進路動向予測が難しくなっている」「不確定要素が大きく、予測計算した結果にどれほどの意味があるかこころもとなくなってきた」と心情が吐露されている。そして「今回は企画を止めることも考えたが、計算は計算として役に立つ部分もあるだろうと、さまざまな矛盾を承知の上で結果を掲載することに決めた」と述べている。
どういう議論があったかは知らないが、企画を止めてもいいと思うようになったのは予測自体の必要性が薄れたということを示しているのだろう。これだけ大学が多くなり、収容能力が大学志望者数を超えようとしている時代には、もはや予想は必要なく、生き残る大学と消えゆく大学の差は何になるのか、という判断と行動力こそが重要だからだ。今後、大学の人気が二分され、大学の二極分化が急速に進むと思われる。大学が過去の予想データとどのようにつきあったか、もはっきりしてくるだろう。
|ERIX-Pressへ|ただ読みWeb文庫へ|「多競争時代の中の大学」目次|前の回へ|次の回へ|